バアさんがうちに来た
バアさんは来るといつも 昔の話を始める
今日も昔話を話し始めた その中で自分が薄々気付いていたけど 確証の持てなかった事実の確認が出来た
「昔 世話になった人がいて その人にお礼を言いたい」 なんて話で 僕が「その人はどこに居んのよ? 会いに行こうぜ」 と言ったら
「自分の昔住んでた町の ケンジの親父の家の裏だからなぁ 親父はまだ生きてやがるから…」なんて言う
ん? 待てよ ケンジってのはうちの親父だろ? その親父って事は僕の爺さんか? つーか じゃあ 10年前に死んだのは誰なんだ?
うちの爺さん10年前に死んでます 葬式しました
どうやら そのケンジ親父って言うのは 別れた旦那で今も地元で生きているらしいのです
僕が爺さんだと思ってたのは 再婚相手で血の繋がらない親父だったそうな…
そういう事を また話の本筋と関係無くサラッと言うバアさんにも腹が立ったが
自分の肉親の話の中で「俺には関係ない人間だ」と言った親父の言葉にとても心が動かされた
うちの親父は今でこそ つめたくドライで無口な印象で世間様に通っているが 昔はきっと にぎやかで情に熱くて行動的な人間だったんだと思う
ホントに心の中は情が深くて優しいけど 今は心を閉ざしているので 余程の親しい人間でないとそれを感じる事は出来ない
親父は自分の前にいる男が自分の肉親で無いと知った時一体どんな気持ちになったろうか?
見てくれよりもずっとずっとシャイで繊細な心を持っているので きっとその衝撃は計り知れない事だったろう
だけど 「爺さんとは生活にこまって 止む無く一緒になった」と公言するバアさんの連れ子を
何の分け隔ても無く(?)育ててくれた爺さん そんな人間をその瞬間から他人と思う事など出来なかったはずだ
それどころか本当の父親を「関係ない人間」と言っている事から 義理の父を肉親より本当の親父だと思い 今も生きてるんだろう
人と人の繋がりって不思議だ 僕はずっと うちの親父は死んだ爺さんに似てるなー と思ってた
血が繋がって無い事を知る前からそう思っていたんだから その思いは本当のはずだ
きっと爺さんと親父は 血の繋がった親子より 本当の親子だったんだと思う
親父が爺さんの事を話すとき いつも悪口しか言わない でも時々ポロッと爺さんの良い所や 優しかった所を話したりする

どんな真実だって強く思う人間の心は動かせないって信じてた 今日の親父の言葉でそれを確信できた
本当に素晴らしい事は自分が思っているよりも近くにあった
それによって自分自身が不甲斐無い事や 駄目な人間である事に変わりは無いけど それでもとても救われた
人間は動物と違って遺伝子以外に子孫に残せるものがある
心を伝えられる 男気や 愛や 心もちを伝える事が出来る それは愛があれば無理をせずとも自然と伝わり またその次の子に残す事が出来る
僕も自分の愛するものに それらのものを伝えられるような人間になりたい